麹菌

麹菌はカビ

生き物としての 麹菌の生態を見てみましょう。麹菌の生態を知ることは、 麹つくりの原理を知ることです。原理を知れば、どのよ うな環境や、原料、道具でも原理を応用して麹をつく ることができます。まず、麹菌はカビです。あなたがよく見る食べものに 生えるカビと同じ生態です。有機質に生え、風呂場や 水場のような、風の通らない暖かくて湿った場所が好 きです。なぜ麹菌は湿った場所が好きなのでしょう。そ れは酵素が関係しています。麹の酵素は「加水分解酵 素」。水分のある環境でモノを分解する酵素です。麹 が酵素を生産するのは、麹にとっての食べものを得るた め。つまりエネルギーを摂取するためです。

酵素で分解して栄養を摂る

麹菌は栄養を摂取するために、根っこに当たる菌糸 の先端から酵素を出します。菌糸を伸ばし、でんぷん やたんぱく質に触れると、そこでその対象物に対応した 酵素が生産され、でんぷんやたんぱく質が分解され、 糖やアミノ酸となるわけです。

麹菌の酵素は「加水分解酵素」なのでこのとき、環 境に水分が必要です。水分がなければ酵素は働かな いので、対象物が分解されません。すると、麹菌は食 べものが得られない→栄養が摂れない→だから成長で きない、となります。充分な水分がある、つまり湿った環境だと、その水分を利用して、酵素が作用し対象物 が分解されます。小さな単位まで分解された栄養を、 麹は菌糸の先端から吸収し、そこにまた菌糸を伸ばしま す。そして、でんぷんやたんぱく質にぶつかったらまた 酵素を出し→分解し→吸収し→成長して→菌糸を伸ば し→また酵素を出す。これを繰り返しながら麹菌は成 長していきます。麹つくりの最初の工程である浸漬で「米 の中心までしっかりと水分を吸わせる」ことは、麹菌の 酵素が働きやすい環境をつくることなのです。米が水を 吸っていなければ、麹菌は菌糸を伸ばせません。抱っ くりで湿度を維持するのは、菌糸をしっかり伸ばすため です。

外硬内軟の蒸し米で他の菌を抑える

そして蒸し米を外硬内軟にするのは、培地である蒸 し米を他の菌に汚染させないためです。米が外側まで 軟らかいと他のいろいろな菌も米を侵食しますが、外 硬内軟の状態は、表面が乾燥して硬いので、他の菌 が繁殖しづらいのです。でも麹菌には他の菌と違い菌 糸があるので、水分のある米の内側に菌糸を伸ばせる ので、他の菌を抑えて優位に成長することができます。 ただ、麹菌の成長には酸素も必要で、軟らかく表面水 分の多い蒸し米(ベチャ飯)は、米同士がくっつき酸素 に触れる面積が少なくなるので麹菌は成長しづらくなり ます。また菌体が水に埋もれて酸欠になったりするので 苦手です。外硬内軟にすることで、他の菌を抑えられ、 麹菌にとって有利な環境が用意されているのです。

酵素の量は菌糸の成長具合で判断

「麹つくりは酵素っくり」と最初にいいましたが、ここ でわかるように麹菌の酵素は、菌糸の成長とともに生産 されます。酵素は目で見えませんが、菌糸の成長具合 を見ることで、どれくらい酵素が生産されたのかを予想 することができます。麹のでき具合は、菌糸がどこにど れだけ成長しているのかを見て判断します。

昔からいわれる麹のつくり方や、職人の仕事も、こう やって麹菌の生態から見るとすべてに理由があります。 この「なぜそうなのか?」の原理を知って実際に作業を して理解すると、麹つくりはとても自由になるし、麹菌 にとって心地よい環境を、人間が先回りして整えてあげ られるので、麹菌はのびのびと成長することができます。 「よい麹を育てることは、よい環境を整える」ということ です。

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